Labor analgesia

「無痛分娩」とは

無痛分娩は、麻酔を用いることで痛みを少なくした分娩です。背中の神経をブロックして痛みを軽くすることが一般的です。「硬膜外麻酔」または「脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔」という方法が用いられます。(硬膜外腔、脊髄くも膜下腔の場所については、日本産科麻酔学会 無痛分娩Q&Aの図3をご覧ください。

腰部から麻酔を行うことで、子宮や産道から伝わる痛みを脊髄で遮断するため、出産時の痛みを効率的にとることが可能となります。(お産の痛みの伝わり方については、日本産科麻酔学会HPの無痛分娩Q&AのQ1、「硬膜外麻酔」や「脊髄くも膜下麻酔」の詳しいことを知りたいかたは、Q4、Q5をご覧ください。

麻酔中は妊婦さんの意識は保たれ、赤ちゃんへの影響はほとんどありません。

当院における無痛分娩の実績

2024.01.01~2024.12.31
分娩件数 174
非無痛経腟分娩件数 123
無痛経腟分娩件数 18
帝王切開分娩件数 33

当院における無痛分娩

当院で行っている無痛分娩は、硬膜外麻酔という方法です。背中からチューブを入れて、痛み止めの薬(局所麻酔)をそこから流すことにより痛みを取り除きます。無痛分娩の中ではもっとも一般的な方法で、子宮収縮に伴う軽い陣痛は感じますが、子宮口が全開大したら、普通の分娩と同様に『いきみ』を行い出産します。「完全に痛みがなくなるものではなく、痛みを最⼩限にするもの」と考えて頂いた⽅が良いと思います。痛みの感じ⽅は⼈それぞれですので、効果には個⼈差があります。

この分娩方法は通常の分娩に比べて麻酔管理という特殊性があり、安全性重視のために医師も含めて麻酔開始時より多くのスタッフの動員が必要となります。したがって分娩は原則として前もって出産のスケジュールを決めておく『計画無痛分娩』となります。したがって突然の無痛分娩の申し出には対応できませんのでご了承願います。特別な場合を除いては日中の対応となります。深夜間や週末の場合には安全性の点で問題が生じかねませんのでお断りすることがあります。計画分娩以外の無痛分娩は行っておりませんので、予定外の陣痛時は対応できない可能性が⾼いことをご承知おきください。

無痛分娩の診療体制と安全対策

インフォームド・コンセント
合併症に関する説明を含む無痛分娩に関する説明書(本説明書)を整備しています。妊婦さんとそのご家族に対して説明書を用いて無痛分娩に関する説明を行い、妊産婦さんとそのご家族が署名した無痛分娩の同意書を保存しています。
無痛分娩に関する人員体制
当院は、無痛分娩麻酔管理者を配置しています。無痛分娩麻酔管理者は、当院における無痛分娩の麻酔に関する責任者です。無痛分娩麻酔管理者は当院の常勤医師であり、麻酔科研修経験があり産婦人科専門医の資格を有し、必要な講習会および救急蘇生コースを受講しています。当院の無痛分娩麻酔担当医は、麻酔科標榜医および産婦人科専門医の資格を有しています。
無痛分娩に関する安全対策
  1. 無痛分娩マニュアルを作成し、担当職員への周知徹底を図っています。
  2. 無痛分娩看護マニュアルを作成し、担当職員への周知徹底を図っています。
  3. 当院に勤務者が参加する危機対応に関する勉強会を年1回程度実施しています。
無痛分娩に関する設備及び医療機器の配置
  • 蘇生設備及び医療機器、母体用の生体モニターを配備し、すぐに使用できる状態で管理しています。
  • 救急用の医薬品を整備しすぐに使用できる状態で管理しています。

無痛分娩のメリット・デメリット

メリット

無痛分娩は、お母さんにも赤ちゃんにも多くのメリットがあります。

お母さんの身体的ストレスと精神的ストレスの緩和
痛みはそれ自体がつらいだけでなく、血圧上昇や過呼吸など招くことがあります。分娩の痛みが軽くなることで、お母さんの身体的ストレスと精神的ストレスの緩和が期待できます。
子宮胎盤の血流改善
一般的に、お母さんが痛みに耐えているときは、子宮胎盤の血流が低下して赤ちゃんへの酸素供給量が減ると言われています。痛みを緩和することは、酸素供給量の改善とストレス改善に効果的です。
産科処置がしやすい
麻酔によりお母さんが診察や処置の痛みを感じにくくなるため、産科処置が速やかに行えます。
帝王切開への移行がしやすい
硬膜外麻酔での無痛分娩中に帝王切開への切り替えが必要になった場合、同じカテーテルを利用して帝王切開に切り替えが可能です。緊急時に速やかな対応が可能となります。
産後の体力の回復が早い
痛みによる体力の消耗やストレスが軽減されることで、産後の早期回復が可能です。

デメリット

無痛分娩の安全性は確率されていますが、いくつかのデメリットやリスクもあります。

分娩遷延
無痛分娩では痛みがやわらぎますが、同時に陣痛も弱まって分娩が遷延したり(ゆっくりになったり)産婦さんのいきむ力が弱くなることがあります。その場合、分娩を進めるために子宮収縮薬を併用して陣痛を強めたりします。
吸引分娩の増加
無痛分娩では、足に力がうまく入らず、十分にいきめないことがあります。そのため、吸引分娩で赤ちゃんの頭部を補助的に牽引する必要性が増加します。この場合、赤ちゃんの損傷のリスクや産道損傷のリスクが上昇します。帝王切開になる確率は普通分娩と変わりありません。
血圧低下
無痛分娩を開始した直後に、麻酔の影響でお母さんの血圧が低下することがあります。その場合、点滴を増やしたり、血圧を上げる薬を使用したりするなどの対応が必要となります。
胎児心拍数/波形の悪化
無痛分娩を開始した直後に、赤ちゃんの心拍が低下することがあります。胎児心拍が回復しない場合は、緊急帝王切開を行う場合があります。
麻酔薬の副作用
麻酔薬の合併症として最も多いのは頭痛(約1%)で、期間は数日程度です。その他の副作用として、かゆみや発熱などがあります。症状が強い場合は我慢せずにご相談ください。
腰痛・下肢の神経障害
無痛分娩の影響で一時的な腰痛や下肢の神経障害を認める場合があります。ただし、通常の分娩でも同様の症状が起きる場合もあります。
排尿障害
無痛分娩の影響で一時的な排尿障害を認めることがあります。多くの場合、症状は退院までに軽快します。

麻酔科的合併症

以下の合併症は極めてまれですが、非常に重篤な合併症です。いずれも初期の段階で適切な対応を行うことで、重篤になることを防止することができます。

硬膜穿刺・頭痛
硬膜は薄い膜なので硬膜外チューブ挿入の際に、針やチューブが硬膜を貫いてしまうことがあります。針穴から脊髄液が漏れるため、頭痛や首の痛み、吐き気が出たりします。特に起き上がった時に症状が強くなり、横になると軽減します。硬膜外カテーテルの先端が硬膜を通じてさらに奥にある、くも膜下腔に入り、そこに麻酔薬が入ることで、麻酔が上半身まで広がり呼吸が苦しくなったり、一時的に意識が遠のいたりする場合があります。
局所麻酔の中毒症状
局所麻酔薬の血液中の濃度が上昇して起こる全身的合併症です。また、カテーテルが血管内に迷入することで局所麻酔薬が直接注入されることでも起こります。初期の症状としては、舌のしびれ、興奮、血圧症状、過呼吸、痙攣があります。この血液中の濃度がさらに上昇すると、意識がなくなり呼吸停止、循環の抑制が起こります。その場合は、直ちに心肺状態の改善に対応します。急性麻酔中毒を予防するには、局所麻酔薬の不用意な大量投与を避けることと、ゆっくり注入することが大切であるといわれています。
神経障害など
麻酔の針による穿刺部の疼痛があります。さらに、神経の分布に沿った痛み、感覚の麻痺などの神経根症状があります。また硬膜外腔に血液が貯留した状態(血腫)や膿が貯留した状態(膿瘍)が起こることがあります。カテーテルを使用している場合でもこの状態が起こることがあります。また、カテーテルが切れて体内に残るなどの合併症や血腫が神経を圧迫することにより、より広い範囲の麻痺となり時に手術が必要となりますが、このような症状の発生頻度はわずかです。そのほかにも手術後に足や背中の一部にしびれが残ったり、感覚が鈍ったり、痛みが残ったりすることがありますが、稀です。
硬膜下ブロック
硬膜とクモ膜の間にある硬膜下腔に麻酔薬が注入されて、より広い範囲の脊髄神経が遮断される状態です。
硬膜外血腫・膿瘍
硬膜外血腫は、硬膜外麻酔で背中に針を刺すときやカテーテルを抜くときに、血のかたまりができて神経を圧迫することがあります。硬膜外膿瘍はカテーテルを入れたところに発生する膿のかたまりで、血腫と同様に神経を圧迫することがあります。いずれも感覚や運動を麻痺させるため、急激に悪化する下肢のしびれなどの症状が起こります。
アナフィラキシー
麻酔薬に対する重いアレルギー反応です。気道のむくみによる呼吸障害や湿疹などが起こります。

計画分娩・分娩誘発促進について

計画分娩のため子宮口を柔らかくしたり、陣痛を起こしたりするプロスタグランジンや無痛分娩では痛みがやわらぐと同時に陣痛も弱まって分娩が遷延する(ゆっくりになる)ことから、陣痛を強めるためにオキシトシンという子宮収縮薬の点滴を行います。これらの薬は、もともと人の体内にあるホルモンの一種です。子宮口を柔らかくしたり、子宮の筋肉を収縮させて陣痛を起こしやすくします。胎児心拍陣痛図モニターを連続装着しながら少しの量から始めて、徐々に増やしていきます。

子宮口の熟化によっては、ラミナリアやメトロといった子宮口を開大させる器具や、子宮頚管熟化剤を使用することもあります。

まれに、子宮収縮が強くなりすぎて(過強陣痛)、子宮や産道が裂けたり(子宮破裂・頸管裂傷)、赤ちゃんが低酸素状態になることがあります。そのため、分娩進行中はベッド上で過ごしていただき、胎児心拍陣痛図モニターを連続装着し赤ちゃんの心音や子宮収縮の状態を注意深く観察し、内服や点滴の速度(量)を調節し、安全に十分配慮します。

入院後の流れ

入院当日

入院
朝外来にて診察後入院となります。
赤ちゃんと産婦さんの状態を確認
赤ちゃんが元気かどうか胎児心拍陣痛図モニターを装着し確認します。
産婦さんの体温・血圧などの測定し、静脈点滴を行い、水分の補充、血管の確保をします。
硬膜外麻酔のカテーテルを挿入
昼に手術室にて硬膜外麻酔のカテーテルを挿入して、カテーテルの位置や効果の確認を行います。
  1. 安全のため、心拍・血圧等の観察を行いながら、カテーテルを入れる間は、産婦さんは背中を丸めた姿勢になり、背骨の間を広くして針を入れやすい体勢にしていただきます。(日本産科麻酔学会 無痛分娩Q&A図5を参照
  2. カテーテルを入れる際には、脊髄周囲の感染予防のため、手術の時の麻酔と同様に産婦さんの背中を消毒します。背中の皮膚に局所の痛み止めの注射をしてから、硬膜外麻酔用の針を硬膜外腔まですすめ、針を通して硬膜外カテーテルを挿入し留置します。
  3. カテーテルは、細く(1mm未満)柔らかいチューブですので、違和感はありません。刺入部をテープで貼り固定、余ったチューブを肩まで固定し、麻酔薬の入ったポンプを装着します。カテーテルの位置や効果の確認を行います。
  4. お部屋に移動し、2時間生体モニターや胎児心拍陣痛図モニターを装着し、赤ちゃんと産婦さんの状態を観察します。このとき陣痛は始まっていないのでポンプの麻酔薬は止めておきます。

入院2日目~

朝から分娩開始となるように子宮口の熟化や開き具合に合わせてプロスタグランジンの内服薬やオキシトシンという子宮収縮薬の点滴を行います。

一日では有効な陣痛が得られずに、誘発分娩が不成功になることがあります。その場合は、再度翌日の分娩誘発となります。
硬膜外麻酔のカテーテルは、固定・留置した状態となります。

分娩進行がみられない場合や、胎児の状態により、緊急帝王切開になることもあります。

一般の分娩と同様に健康保険は適応されませんので、通常の分娩管理料のほか持続硬膜外麻酔管理料(¥100,000)が加算されます。分娩途中で緊急帝王切開となった場合はその時点からの保険適応となります。硬膜外麻酔のカテーテルの挿入中に医学的な理由で挿入が困難な場合は無痛分娩の計画は中止となります。それまでに要した麻酔の診療材料の請求はご了承願います。